ふと押入れを覗いて、段ボール箱の中に入れたままのアルバムを手に取った。
一番上にあったのは、実家から幾つか選んで持って来た写真だ。
生後間もない頃から七五三、高校の入学式や独身時代など、年代がばらばら。
その中に、数枚まとめてポケットに入れてある写真があった。
私が一人暮らしをしていた頃、マンションの部屋の中で、ソファに座ってくつろいでいる写真。
そう、、、彼との思い出の部屋。
まるで新婚生活のような、蜜月を過ごした頃の写真だ。
「あぁ、これ、あったんだ!」
結婚する前に、捨てたとばかり思っていた。
彼が撮ってくれた写真は(ヌード写真を除いて)、これしかないと思う。
嬉しくて泣けてきた。
そう言えば、つい先日も「あの写真、残ってたらなぁ」と思い出したばかりだった。
ちょうど30年前。
日付も覚えている。
8月17日、お盆休み。
彼が4月に転勤してしまって、
それまでは毎日、職場でも私のマンションでも会っていたのに、会えなくなって。
電話で声を聞くくらい。
彼と離れてしまって、私は鬱が急激に悪化した。
だからこの頃、彼といつ、どのくらいの頻度で会っていたか?
記憶が無い。
寂しさが募って、いつもの悪い癖で想いが爆発して、彼に当たってしまった。
「旅行に行こうって約束したくせに、
いつ連れて行ってくれるのよ。
お盆休みに、絶対連れてって!」
確か、お盆の1~2週間前だった。
急に言い出したにもかかわらず、
彼は無理して、約束を果たしてくれた。
旅行の出発前に、私のマンションの部屋で撮った写真。
ソファ、テーブル、カーテン、家具、ドア、鏡、置き物、間取り・・・。
何もかもが懐かしく、思い出が溢れてくる。
そして私の生意気そうな顔。
そう、この頃は怖いもの知らずで、彼に対しても横柄な態度をとってたな。
今じゃ、彼が離れてしまいそうで、自信がなくて、彼の顔色を伺ってるよ。
車で2時間くらいドライブして、海辺のレストランでランチした。
湖のある公園に寄った。
駐車場で数枚、
湖のほとりで白鳥と戯れてる写真も。
これが、彼の目を通して見てる、
私の姿、表情。
そう思うとますます、これらの写真がいとおしくなる。
今度、彼に会った時に、写真を撮ってもらおうかな。
公園から1時間くらい山奥へ進んで、温泉街に着いた。
写真は食事中のもの。
浴衣を着て、テーブルにはたくさんのご馳走が並んでいる。
ご機嫌な表情の私が写っている。
まだ21歳だもの。若いなぁ。
この時の私に言ってあげたい。
30年後も、彼と温泉旅行に行くよ。
この時、どんなに彼に愛されている自信があったとしても、
30年後も愛し合っているとは、想像できなかっただろう。